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大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)1519号 判決

原告

近江源兵衛

被告

西宮工業株式会社

主文

被告は原告に対し金十七万四千九百十円及びこれに対する昭和三十一年四月十一日から右支払済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金四万円の担保を供するときは仮に執行できる。

事実

(省略)

理由

原告主張の宅地が原告の所有であることは、当事者間に争がなく、成立につき争のない甲第一、二号証の各一、原告本人の供述、本件証拠保全における申立本人近江源兵衛の供述並びに検証の結果を綜合すると、右土地は従来原告においてその主張のような設備を施し、外部から容易に侵入することができないようにして保管していたところ、被告は原告に無断で昭和三十年十二月十日右土地の北側中央部出入口の施錠を取去つて内部に入り、その内約五分の二に当る九十七坪を建築材料置場として同日から昭和三十一年三月十七日まで使用したことが認められ、証人栗原辰次郎の証言、被告代表者本人栗原竜平の供述中、右認定に反する部分はいずれも前示各証拠に比照してにわかに措信し難いし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、被告主張の(二)の抗弁について、考えるに、仮に右土地が、被告主張のように古くから空地であり、原告においてこれを使用収益していなかつたとしても、その抗弁の理由のないことは、原告主張の説示のとおりであるから、右抗弁は採用できない。

次に被告主張の(三)の抗弁について考えるに、前示証人栗原辰次郎の証言、被告代表者本人栗原竜平の供述によると、被告会社取締役栗原辰次郎は、被告会社において、本件土地を使用する必要上、本件土地の前にある写真材料店でその所有者が何人であるかを尋ねたところ、同店は訴外株式会社第一銀行の所有であると答えたので、同銀行に使用許可方を交渉しようと準備中、その翌日訴外奥谷清が現場へ来て、右栗原に対し「本件土地は第一銀行の所有で自分が同銀行から依頼されて管理中のものである」といつたので、被告会社は、奥谷に金を渡せば同人において一時的使用を承認するであろうと考え、即日同人に対しこれを交付し、もつて、同人の承認を得たので、爾来本件土地の内前記地域を使用して来たものであることが認められる。けれども原告本人の供述によると、右第一銀行は本件土地については何らの権利もなく、また原告は、第一銀行や奥谷に本件土地の管理を委託したことがないことが認められる。そして、被告において、本件土地使用の当初前認定のように善意であつたとしても、本件土地の所有者またはその他の使用権利者が何人であるかを土地登記簿、土地台帳等につき調査の上、その所有者またはその他の権利者から適法に使用の権限の附与を受ける措置をとるべきであつたにかゝわらず、その措置をとらないで、前記認定の事情の下において慢然使用権限を附与せられたものと軽信したのは、被告において過失があつたものというべきである。

右の次第であるから、被告は本件地域の不法占有者として所有者である原告に対し、その占有期間における材料置場としての賃料相当の損害を賠償する義務があるわけである。

そして、本件地域を材料置場として短期間賃貸した場合の相当賃料は鑑定人佃順太郎の鑑定の結果によると月坪金五百五十二円であることが認められるから、本件占有期間(三ケ月八日)における相当賃料は合計金十七万四千九百十円(円未満切捨)であることが計算上明かである。そうすると、被告は原告に対し右と同額の損害を賠償する義務があることになる。そして、原告主張の(四)の事実は被告においてこれを明かに争わないから、自白したものとみなすべきである。

そうすると、被告に対し右損害金十七万四千九百十円及びこれに対する昭和三十一年四月十一日(原告主張の(四)の書面記載の履行期間満了の翌日)から支払ずみに至るまで民法の定める年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、民事訴訟法第八十九条、第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安部覚)

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